日帰り全身麻酔
デンタマンランド おく小児矯正歯科では、2016年3月より日帰り全身麻酔下での治療を開始しました。
デンタマンランド おく小児矯正歯科での全身麻酔
【1】全身麻酔の理解のために
1.はじめに
安全で快適な歯の治療が私たちの理想です。安全は身体だけでなく、心が傷つかないことも含めてのことです。
安全で快適な、そして質の高い歯の治療のため、また、子供の成長・発達や障害者の人格と尊厳を守るという考えから私たちは全身麻酔を使うことがあります。
2.全身麻酔とは
全身麻酔とは、全身麻酔薬によって、意識がなくなり、痛みを感じないなどの状態です。患者さんは眠っている間に治療が終わります。
3.全身麻酔の安全性
全身麻酔に使用する麻酔薬は小さな赤ちゃんや,高齢者,手術が必要な疾患のある患者さんにも基本的に安全です。麻酔中は気管挿管をはじめとする呼吸管理や全身状態のモニタリングも実施しています。それでもいわゆる事故は稀に見られます。原因は患者さんの体質や医療者のエラーです。
ほとんどすべての医療用薬剤は、極少ない確率ながら(数万例に1例程度)アレルギー反応などいろいろな副作用がおこる危険性があります。これらの徴候をいち早く察知するためにも麻酔中は専門の麻酔科医が常に患者さんの血圧や心電図、酸素飽和度などで安全を監視しています。
薬剤によるアナフィラキシーショックと吸入麻酔剤によっておこる悪性高熱症については麻酔の前に予測することが困難で、対応マニュアルや治療薬を常時準備しています。
当院では、全身麻酔をお受けになるすべての患者さんの麻酔は、歯科麻酔認定医または専門医が担当しています。
4.全身麻酔の方法について
(1)眠らずに心電計や血圧計などを装着できる患者さんは装着します。点滴操作に協力できる患者さんは注射用麻酔薬で眠ることもできます。
(2)モニターや点滴の協力ができない患者さんでは吸入麻酔(ガス麻酔)による入眠を施行しています。治療台の上で横になってから、口と鼻を被うくらいのマスクを顔に当てていただきます。
マスクをぴったり顔に当てて吸わないと効き目がないので、患者さんに拒否行動がある時にはスタッフが患者さんを抑制する事があります。きちんと吸えたら2~3分で意識が無くなります。
(3)意識がなくなり体の力も抜けた時点で、心電計や心電計などのモニター類を患者さんに装着し、本格的に麻酔を進めます。
(4)麻酔中は気道(呼吸路)の確保が必要です。
注射用麻酔薬のみの投与では、通常、患者さん自身で呼吸路を拡げ、口腔内の水などをうまく溜めたり飲み込んだりできることが多く、特別な処置をしません。しかし、以下の場合にはなんらかの呼吸補助器具を鼻、または口から挿入し呼吸の安全を確保します。
・顎が小さい、舌が大きいなどで意識が無くなると呼吸がしにくい場合
・治療の内容が水を多く使う場合
・注射薬だけでは麻酔が浅く、ガス麻酔も併用し続ける必要がある場合
・治療に時間がかかる場合器具を用いた気道の確保には鼻から気管内まで管を通す【経鼻気管挿管】、小さなマスクを口からのどの奥に挿入して気管の入り口を覆う【ラリンジアルマスク】、鼻からのどの奥まで管を入れる【経鼻エアウェイ】の方法があります。患者さんの呼吸力、麻酔方法、治療内容、治療時間によって選択します。
(5)器具を用いた気道の確保に関する 合併症
・管が鼻腔を通る場合、抜いたあとの鼻血がしばらく続くことがあります。
・気管の近くや気管内に直接、酸素や麻酔ガスが行きますので麻酔後、咳や痰が出やすくなります。
・小学生以下の小児では鼻腔から耳へ圧が行きやすく、麻酔後「耳が変」と訴えることもあります。
・経鼻気管挿管後では、のどの奥の違和感や声のかすれも見られます。
これらの症状はほとんど当日のみで消失します。症状が何日も続く場合はお知らせください。
(6)気道の確保をして酸素と麻酔ガス、麻酔薬を投与し続けることで麻酔が維持できます。
(7)麻酔ガスや注射用麻酔剤を中止して、酸素だけを呼吸することによって麻酔から醒めて行きます。
(8)気管内チューブなどの管は意識が戻る前に抜きます。
(9)呼吸のための気管内チューブを抜いても呼吸や循環状態に異常がないことを確認して、点滴やモニター類もはずして、回復室に移ります。
保護者の入室について
保護者の方は、患者さんが麻酔ガスで眠るまで約5分程度同伴していただいてかまいません。患者さんが眠った後は点滴やモニター装着など本格的に麻酔の処置に入りますので保護者の方は待合室でお待ち下さい。40分くらい後に終了時間の見込みをお伝えすることが出来ますので、終了時間を御確認の上1~2時間の外出も可能です。
5.全身麻酔後について
(1)術後観察と帰宅
時間の短い全身麻酔では、治療台で10分程度休んだあとは待合室で休憩し、歩行感覚などを確認してから麻酔医が帰宅許可をします。
回復に時間がかかる場合または麻酔時間が2時間程度かかった場合は回復室で保護者(付き添い)の方と一緒に過ごします。
30分内外で意識状態がかなり回復してきます(個人差があります)。
意識がはっきりしていて、座位をとっても気分が悪くなければ水分摂取(麻酔医が指示します)を始めます。
座位をとったままでも顔色に変化がなく、歩行ができる様子であれば待合室に移動します。歩行に問題がなく、口腔内、体調に問題がないようでしたら麻酔医が帰宅許可をします。
治療後には治療医や衛生士から治療に関する説明があります。
安静時には問題がなくても、歩行時のふらつきやめまいなどの症状は長時間残りがちです。歩くと嘔吐もしやすいので、できましたら帰途の交通手段は自家用車あるいはタクシーの心づもりが安心です。
(2)食事の開始
帰宅後疲労感が強ければまず休ませてください。自然な眠りで昼寝ができた後くらいに食事を開始するのが適切ですが、回復には個人差があります。飲水後も嘔吐が無く、本人の希望があれば消化のいい物から少しずつ食事を開始してください。嘔吐があった後は、時間をおいて飲料水から再度経口摂取を始めて下さい。
6.全身麻酔の合併症について
麻酔からの醒め:通常、ふらつきや倦怠感は麻酔後5時間程度ですが、てんかんの薬や精神安定剤を飲んでいる場合、眠気やだるさが長引きがちです。個人差もあります。
悪心・嘔吐:麻酔剤の作用で麻酔後5時間くらい吐き気や嘔吐、食欲低下がみられることがあります。便が緩くなることもあります。情緒的に不安感などが強いと翌日まで嘔吐が継続することもあります。
情緒の問題:口腔内の違和感や麻酔後の半覚醒感覚などが不安要因となって嘔吐の継続、食事の拒否、不眠などが見られることがあります。
発熱:歯科の外科処置の影響や小児の呼吸器の感染症(麻酔の前から少しあった症状が悪化する場合)などがあります。小児の術後呼吸器合併症の疑いで当日のうちに小児科を受診して頂いた患者さんは気管挿管全身麻酔約500名に1名程度です。入院や重篤な経緯となった患者さんはこれまでにはいませんが小児は注意が必要です。
気管挿管による影響:気管挿管時には声門の損傷や浮腫、喉頭の軟骨の脱臼などがおこりやすいので細心の注意を払っております。気管挿管の時期より何十日も遅れてのどの痛みや声のかすれが出るときはチューブと声帯の接触により声帯肉芽を形成していることもあります。数日たってもかすれ声症状が改善しないときはご連絡ください。気管挿管に関連する合併症の場合は精査のできる耳鼻科を紹介しています。
薬剤による重篤な反応:薬物やゴム製品などがアレルゲンとなるアナフィラキシーショックや吸入麻酔ガスによる悪性高熱症が数万例に1例程度の頻度でおこります。治療法は確立されていて、当院でも対応マニュアルや特効薬を常備しています。
麻酔中あるいは麻酔後に全身的に大きな問題が起こった場合には高次医療機関などと連携していきます。
7.費用について
全身麻酔を使用した歯科治療は保険診療で実施します。
【2】全身麻酔に備えてご協力いただきたいこと
当院の全身麻酔は、全身麻酔の説明→(半日コースの場合)前日夕方の体調確認→絶飲食→麻酔当日という流れで進んでいきます。よって、以下のことにご協力をお願いします。
1.体調の変化があれば早めにお知らせ下さい。
安全な麻酔も、患者さんの体調によっては体調の悪化を招く結果となりかねません。次の場合、麻酔を延期することがあります。
*37.5度以上の発熱、頻繁で止まりにくい咳などの風邪症状・喘息症状
*嘔吐・下痢の症状
*ウィルス性伝染性疾患(はしか、水ぼうそう、おたふく風邪、風疹、など)
*予防接種直後:生ワクチン(ポリオ、BCG、麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜなど)は4週間、不活化ワクチン(3種混合、肝炎、インフルエンザなど)は2週間たって副反応が出ないか確認して、免疫がついてから麻酔をします。
*歯科治療を急ぐ場合もありますので、体調の程度とのかねあいで保護者の方と十分お話をしてどうするか決めていきます。
*ほとんどの患者さんは、翌日から通常通りの生活にもどれますが、麻酔からの回復経過によっては体調が万全でないかも知れません。翌日まで、ご家庭でゆっくりできる予定にされておいた方がよいでしょう。
喘息がある患者さんは、術前にかかりつけ医へ対診文書を発行して全身麻酔への相談や周術期の喘息管理をお願いしています。また、当院は開業歯科医院で入院設備がありません。入院での治療を希望される場合は高次医療機関へのご紹介もしております。
2.麻酔前の血液検査
採血が可能なら、麻酔術前検査として血液検査を行います。
3.麻酔前日夕方の体調確認
麻酔時間が2時間程度の場合、体調に変わったことがないかどうか当院より確認の電話をいたします。できれば、体温の測定を行っておいて下さい。1時間程度の麻酔の場合は前日の確認がありませんが、体調に不安がある場合は早めにご連絡ください。
4.麻酔前の絶飲食
これは守っていただくことの中で最も重要なことです。麻酔をかけるときに胃の中に内容物があると麻酔がかかった後、嘔吐してしまいます。嘔吐物は肺の方へ流れ込みやすく重篤な肺炎を起こすことがあります。
絶飲食の時間
(1)食事の制限
A. ガス麻酔を使用する場合は麻酔開始の6時間前から食事禁止です。
・肉料理、揚げ物、ピザなど脂肪分の多いメニューは避けましょう。煮物、みそ汁などの和食メニューがお奨めです。
脂肪分の多いメニューでも8時間経過したら胃を通過しています。
・麻酔開始までに胃の中を空にすることが目的ですので食べ過ぎないようにしてください。量はいつもより少なめにしてください。
・ジュース、スープ、牛乳、とろみ付き水分などはすべて食事扱いです。麻酔開始の6時間前から禁止です。
B. 注射麻酔薬だけを使う場合は麻酔開始の4時間前から食事禁止です。
・この場合も、食事量はいつもより少なめにしてください。
(2)食事禁止以後、麻酔開始2時間前まで水分(水、お茶、ポカリのみ)許可。量の制限はありません。
(3)麻酔開始2時間前から水分も禁止。
(4)患者様ごとの具体的な時間をスケジュール表でご確認ください。
*食べ物以外のものも口に入れないように注意してください。
*「食道アカラシア」「胃食道逆流症」など消化器通過障害がある場合、長時間の絶飲食が持病に影響する場合、などは必ず事前にお申し出ください。
〔入浴について〕
麻酔当日は入浴できないこともありますので、前日はなるべく入浴しておきましょう。入浴については当日、麻酔担当医が許可します。
〔絶飲食の厳守〕
絶飲食は、前日夜よりも当日朝の方が大変かと思います。しかし、全身麻酔を受けるときには必要な条件です。食べ物以外にも異物を口の中に入れないかなどにも注意して下さい。歯磨きも、水をたくさん飲む可能性があるときには中止して下さい。絶飲食が必要な理由をご理解いただき、ご協力のほどお願いいたします。
5.麻酔当日
〔来院時間〕
麻酔開始の15分前に来院して、トイレなどすませてください。
麻酔医が問診に伺うことがあります。
〔常用薬について〕
けいれん止めなど、常用薬の服用が必要であれば麻酔開始の2時間前までに水、お茶、ポカリなどで飲ませて下さい。
〔服装について〕
上半身は、胸に電極シールを貼ったり、左腕に血圧計を巻きます。上着は前開きで袖が脱がせやすいものを着用して下さい。(難しければ普段の服装で構いません)身体を圧迫する下着類は着用させないで下さい。
〔持ち物について〕
*着替え一組
失禁や嘔吐などで衣服が汚れることもあります。念のためご用意下さい。
失禁の心配がある場合は、紙オムツの着用、替えオムツの持参をお願いします。
タオルなどの準備もお願いします。
*飲料水(お茶または水)
回復室での経過を見ている間、
意識や反応がはっきりしてきましたら水分の経口摂取を始めます。
ご自宅から水分(お茶または水)をお持ち下さい。食事は帰宅後になります。
〔付き添いについて〕
麻酔の後は4~5時間、歩行能力や記憶力、判断力がいつも通りでなはいことがあります。安全のために、付き添いをお願いしています。
注射用麻酔剤のみの短時間麻酔では、休憩のあと患者さんお一人での帰宅も許可しておりますが、車の運転は禁止です。十分に注意してご帰宅ください。